続いて舞台になる場所は、南森町にあるシカゴロックです。
立地は、地下鉄南森町とJR大阪天満宮の駅からすぐ、大阪天満宮の裏側、すぐそばには大阪唯一の定席落語専門寄席である天神天満繁昌亭があり、日本最長という触れ込みの天神橋筋商店街の一本裏道。
細長い雑居ビルの地下一階。
30人も入れば、もう酸欠で苦しくなる。
特別な防音設備も無く、カウンターがある鰻の寝床の様な店内奥のスペースに演奏エリアがある。
初めて来た人は、誰もがその環境に驚く事だろう。
看板はジミー・リードとエディー・テイラー。
ブルースマンがペイントされた壁に貼られた無数のフライヤー、ルリー・ベルやボニー・リーなどのサインも壁に無造作に殴り書きされてある。
そんな演奏者にもお客さんにとっても、不都合な条件が整っているのだ。
それなのに、通う詰めるうちに、不思議と居心地が良くなる。
土曜日の深夜、久米君と三木君とまたいつもの様に居残った雑談中に、
「いろんな場所あるけど、なんで、ここが一番やり易なったんやろ?」とぼやきあった。
前の日記の冒頭に触れた通り、土曜日はマッドハープ加藤の生誕記念ライヴだったのだ。
この日の一晩の主役は、マッドハープ加藤であった。
夕刻から、マッドハープ加藤ハーモニカ講座開催。
講座後に、マッドハープを慕う有志が囲んでのライヴという一夜である。
ボクがマッドハープ加藤の名前を知ったのは、20年以上前。
堺にあるサムズ・レコードのライヴ、そして日本橋にある楽器店のスタジオでハーモニカ教室を開いているという情報だった。
以来場所を変えつつも、途絶える事無くブルースハープ教室は、マッドハープのライフワークとも言える活動の一環である。
ボクの周りにも、マッドハープ直伝でブルースハープの手ほどきを受けたという人が少なからずいる。
出逢った人なら、一見して分かるだろう、お世辞にも社交的な人物とは言い難い。(加藤さんすいません)
でも、どういう訳だか、マッドハープの元には、ある一部の人が途絶えない。
「講座を開いても人が集まりまへんわ」
マッドハープの書くブログには、頻繁にそんな嘆きが登場する。
ボク自身は20数年、演奏する時以外平素のマッドハープを知らない。
破天荒だった昔の笑い話くらいは、知っているけれど、それも全てブルースの現場での出来事に限る。
(撮影/小島在清氏)
ブルースを追いかける東京在住のカメラマン、小島在清氏(今年の秋に小生が企画開催したBlues Before Sunriseを撮影・取材して頂き、ブルース&ソウルレコーズ誌で記事にして頂いた)が、マッドハープを被写体に選んでいる。
彼曰く、マッドハープから『人間味』を感じるのだと言う。
そんな人間味に惹かれたのか、この夜の講座にも男女数名の方が参加されていた。
シカゴロックへ向かう途中、その地下から通りにバップ、バップ、とハーモニカの生音が漏れ聴こえていた。
20数年前と何一つ変わらない光景である。
講座の最後には、参加者が席を立って、またバップ、バップと席を立って踊って終わった。
奥でドラムのセッティングをしながら、
「マッドハープが何人もいる気がしますな〜」と誰かに独り言の様に思わず呟いていた。
そのマッドハープ加藤がこの日めでたく誕生日を迎えた。
本人も公表しているので、51歳ということだ。
朝早く起きて、ランニングをし、昼間肉体労働に汗をし、週末のライヴ会場へは、とてつもない距離をママチャリで疾走する。時間があれば、銭湯で湯船に浸かり、休日の出掛ける釣りが楽しみらしい。
その一部始終を見た人は皆無だが、その光景を想像するだけで、小島氏の言った『人間味』の一端が垣間見える。
勿論どの音楽にも、身につけるべき基本的なスキルは必要だが、この人間味という調味料を音楽に味付けすることはなかなか容易くない。
この夜、マッドハープのいつもと同じボソボソとしたMCの中で、前記事からタイトルにした「人生いろいろと背中に見えますわ」なる問いかけを聞き逃さなかった。
きっとマッドハープは、お客さんにもそんな人間味を求めにやってきているのだろう。
マッドハープと共にボクのブルース初体験時に大いなる影響を与えてくれた一人、ギタリストのバッドボーイ明里さん(加藤さん、明里さんにはやはり敬称を付けさせてもらいます)が共演者にクレジットされている。
バッドボーイのネーミングは勿論、ブルースに明るい人ならピンとくる、エディ・テイラーのあの名曲からである。
現在も最もフェイヴァリットなギタリスト、エディ・テイラーの名も明里さんから学んだ様な気もする。
同世代の二人には、やはり通じ合う何かがあるのだろう。
マッド&バッドの二人によるダウンホームなブルースでライヴは幕開けした。
決して気張る事の無く、淡々と曲が進む。
二人に笑顔が溢れる事はほとんどないが、きっと楽しいんだろうな・・・。
京都の南部君のギターで途中からビート感が加わり、マッドハープの音量が徐々に増す。
愛情ある常連客からの野次が飛び交う。その度に「すんまへん」と謝る苦笑いのマッドハープ。
そんなやりとりの最中にボクは、タイトルにした例の台詞を聞いたのだろう。
マッドハープにとっては、何となく口から出た言葉なのかもしれないが、この日のボクには印象深い言葉だった。
二人集まれば、二人にそれぞれ異なる生活があり、価値観を持ち、大切にする事の順序も違うだろう。
そこに大小はあれ、悩みを抱えない人、また闘っていない人など、余程の楽天家を自称している人の中にもきっとあるだろう。
一日一日がその積み重ねであって、結果的に人は安らぐ場所を探し求めて彷徨っている。
マッドハープ加藤という人もきっとその中で浮き沈みをしながら、ハーモニカを吹き、ブルースを唄っているのではないかと、想像した。
ブルースには、そうした日常にある何気ない喜怒哀楽が簡潔な言葉で綴られる。
ブルースに興味を示さない人は、確かに多い。
「全部、おんなじに聞こえる」とか「暗いわ」とか否定されると、実際に返す言葉に窮し反論が難しい。
ボクは、ブルースと出逢ったことで、心が開放されたし、仲間が次々に出来たし、一時でも夢中になれるのだ。
2ステージ目からボクはドラムで参加させてもらう。
軽いリハーサル中「いつも通りに叩いてええよ」とお許しが出たので、本番は構わずに叩かせてもらった。
終わりには生徒さんらも混じって、マッドハープ生誕ライヴは賑やかなハーモニカ祭りになって予定時間をオーヴァーして23時にお開きになった。
そしてマッドハープは、野次将軍なのに実は一番の支援者である方のトラックの荷台に愛用のママチャリを乗っけて、帰っていった。
マッドハープは今日も明日もどこかの河原か、公園か、はたまた自転車をこぎながらいつもの様にハーモニカを吹いているのだろう。
ボクもそんなマッドハープ加藤の支援者の一人でありたい。
ボクの背中の後には何が見えるのだろう・・・。
気になるけれど、これからも問わないでおく。
それが一番だ・・・・。
当日の動画の一部を貼付けておきます。
よろしければ、クリック視聴下さい。
(他の動画数本も小生YouTubeチャンネルにアップロード中です)
http://www.youtube.com/user/TAKAGIMAN
マッドハープ&バッドボーイ
十八番Big Walter Hortonの「have A Good Time」
19歳の頃から「パチパチ・ブギーズ」としてマッドハープとは旧知の間柄、チヒロ。
まだ癒えない右肩ながらも飛び入り参加。