"I Cry So Much"
小生にとって、トラウマのように耳の奥に今もしっかり残っている。
先日のプチ大掃除の作業のひとつ、120枚ほど収納できるCDバッグの整理。抜け殻のケースとの照合作業にひと苦労した。
その99%がブルースものだが、中には久し振りにお目にかかる代物あり、それこそ来る日も来る日も聴いた記憶のあるものまで、なけなしの懐具合にも関わらずせっせと集めたものだ。
それでも周辺にいるブルース狂のお宝と比べれば可愛いものです。
とにかく、ハープものが多い。もしもが実現するなら、ブルースに出逢った頃に戻ってハーモニカの手ほどきを受けたいと思うこともある。それぐらいに、ハーモニカの音にブルースを感じる体質のようだ。
実体験としても、参加するバンド(数少ないですが)では、ハーモニカ担当者が必ずいた。
最初に組んだ(引き込まれた)バンドは、高校の同窓生5人によるもの。
メンバーの一人から、シカゴブルースを深夜の車中で教授された。彼はハーモニカをくわえながら、ハンドルを握っていた。
もちろんカーステレオは、カセットテープである。
ダッシュボードに並べた手書きレーベルの背中を指差しながら、聴いた。
バンドの方は、無鉄砲にも人前での演奏にも挑んだ。
・・・が、とにかく出来ない。まとまらない。同級生ゆえ言いたいこと半分、飲み込むことも半分。その後の空中分解は必然だった。
前述の"I Cry So Much"の一件をCD整理中にそんな昔話と一緒に思い出した。
只今、パソコンのiTunesで流れている。
若きキャリーのハープとエディー・テイラーのイキリ気味、走り気味のギターに思わずにやついた。
P-VineからCD化されたキャリー・ベルの記念すべきデビュー作(69年)だ。
日本語のライナーを書いているのは、あのハーモニカの同級生である。
さてトラウマは、彼が原因ではない。
メンバーが入れ替わったのち、バンドは継続。
今や考えられないライブ前には入念すぎる打ち合わせと選曲、そしてスタジオ練習で挑んでいた。
新曲候補に選ばれたのが、キャリーのこの一曲。
エルモア・ジェイムズがVee Jayレーベルに残した名曲『Cry for Me Baby』を下敷きにした曲。
リズムの合間の微妙な隙間が絶妙であり、ノリを間違えばとんでもない結末を迎えるだろうことは薄々感じていた。
カ〜ラカラカラ〜、印象的なイントロは周平が担当。
・・・・・。
私
「でけへん・・・」半べそ。
私
「無理!」逆切れ。
私
「俺もうバンド辞める・・・」試合放棄。敵前逃亡。
結局、ボクの抵抗で、人前に日の目を見ることなく、事なきを得た。以来、トラウマとして焼き付いたという訳。
なのに、好きなブルースの曲の中に入選することは間違いないだろう。
先日、その同級生バンドでベースを担当していた(実は彼もハーモニカをたしなんでいて、実家でJ-ガイルズバンドを吹きまくり、姉貴に「うるさいねん!」とハーモニカを階段から投げ飛ばされていた)首都圏に住む某から、突然のメール。何年も会っていない。
「昔、お前らとやっていたバンドの写真持ってへん?」
という。もちろんそんな写真など撮った記憶もない。
と、返信する。
「会社の会報の社員コーナーに使用したかった」らしい。
彼の中では、誰も知らない過去の姿なんだろう。
キャリーを語るかの男も今は一切ハーモニカを披露しないと風の噂で耳にする。
いつかどこかで、I Cry So Much、リベンジしないとならんね、こうなりゃ。
ブルース・ハープ
キャリー・ベル